2015年9月9日水曜日
臥竜山
出典
http://www.kitashinanoji.com/minwa/minwa-index.html
臥竜山
その昔、ひとりの坊さんが、菅平をこえて須坂の里にやってきました。
ちょうど坂田山の峠にさしかかったとき、足もとにひろびろとした土地がひらけてみえました。 ずっとむこうには、雪をいただいた飯綱、戸隠の山々がそびえ、そのすそには川が銀色に光っていました。
そんな景色に、坊さんはしばらく見とれていました。
「わしの探す寺はどこじやな。」
と見おろしている坊さんの目に、大きな寺がはいりました。と、どうしたことでしょう、その寺のわきにある森が動きだしたではありませんか。
と見おろしている坊さんの目に、大きな寺がはいりました。と、どうしたことでしょう、その寺のわきにある森が動きだしたではありませんか。 その黒い森と見えたのは、じつは、竜の寝姿だったのです。
まるで、山のような大きな竜は、ときどき頭をもちあげ、天にむかってほえたてました。そのたびに、かわらのような厚いこけは逆立ち、ながい尾が風をきってとびかいました。
「これは大変だ。竜をしずめないと、あの寺に行くことができないぞ。」
坊さんは何を思ったか、三畳もある大きな岩に向かって、こんこんと石で何かを刻みはじめました。 坊さんはそれから幾日も、峠で過ごしました。
背負ってきたお釜の米はほとんどなくなっていました。最後の米を炊きおわったとき、ようやく坊さんの仕事も終わりました。
岩には「竜」という文字が大きく刻まれておりました。その文字は竜を臥せてしずめるおまじないだったのです。
「ああ、これでやっとできあがったぞ。」
坊さんは、岩の前に立つと長いことお経を読みつづけました。と、そのうちに、峠の下からものすごいつむじ風がおこって、その大きな岩が大空に舞いあがったではありませんか。
岩は、ゴーッとうなりを、たててとんでいき、竜の頭に落ちました。竜は天地がさけんばかりのさけび声をあげ、まりのようにはねあがりました。
その勢いで、百々川の水は逆流し、澄んだ水は、竜の吐きだす息で真っ赤に染まってしまいました。
空高く舞いあがった竜は、やがて地響きをたてて地に落ちると、息が絶えてしまいしました。
そのとき、横だわった竜の姿は、そのまま小高い山となりました。
その山の内側は、竜がのだうちまわった後でしょうか、満々と水をたたえた池となりました。
しかし、竜の吐き出した血で、池のふちは褐色を帯び、百々川の川底も赤く染まってしまいました。
池に写る山のありさまは、京都の嵐山をおもわせる美しさで、いつのころからか、人々は、この山を「臥竜山」と呼び、池を「竜ケ池」と呼ぶようになりました。
そしていまだに、竜の文字を刻んだ岩が、この山のどこかに埋まっていると信じられています。
信濃教育会出版部より
作・羽生田 敏
さし絵・丸山 武彦
採集地・小山
長野県 長野地方事務所 長野広域行政組合刊 長野地域民話集昔々あるところより
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