小泉小太郎とさんぶたろうの伝説を比較すると、母である竜神(大蛇)から生まれた息子(さんぶたろう、小泉小太郎)が、母から授けられた力で世界を創造する、というよく似たストーリーの構造を持っており、また、その他にも類似点が多いことに気づかされるのである。
※注釈k3-b:信州は、地下の国に降った後、大蛇(龍神)になって地上に戻ってきた甲賀三郎など、蛇に関する伝説が数多く残っている地域でもある。(注釈k3-bここまで)
小泉小太郎の伝説には、地域によってさまざまなバリエーションがあるが、『日本の民話17信濃の民話』瀬川拓男氏の再話によると、概ね次のような内容である。
※注釈k3-c:「信濃の民話」編集委員会編;江馬三枝子編『定本日本の民話17信濃の民話 飛?の民話』未来社 1995.5.該当ページはp.175~183.(注釈k3-cここまで)
むかし独鈷山というけわしい山に、若い坊さまのすむ寺があった。いつの頃からかその坊さまのところへ美しい女が通ってくるようになった。
不思議に思った坊さまは、ある夜、そっと女の着物に糸のついた縫針をさしておいた。
夜があけてみると、糸は庭をぬけて山の沢を下り、産川の上流にある鞍淵の大きな石のところまでつづいていた。
ふと岩の上を見ると、生まれたばかりの赤児を背にのせた大蛇が苦しそうにのたうっている。大蛇は坊さまに気がつくと、「こんな姿を見られては生きていることはできない。針をさされたので鉄の毒も体にまわった。どうかこの子をたのみ申します。」といって赤児を岩の上におろし、ざざーっと水煙をあげて淵の中へ姿を消してしまった。
坊さまは恐ろしさに震え上がり、赤児をそこに残し、逃げ帰った。
その後、大水で川に流された小太郎は、小泉村というところで婆さまに拾われて育ち、湖に住む母(大蛇=犀龍)と再会し、協力して湖をせき止めている山を切り崩し、土地を開拓することになる。
なお、湖から流れ出た水は犀川になり、湖が干上がって生まれた土地は、現在の松本、安曇の両平野になったといわれている。
伝説では、小泉小太郎の母(大蛇=犀龍)が住む湖は、周囲を山に囲まれており、大昔に天の神が練っていた五色の石のかけらが地上に降ったとき、えぐれてできたのがこの湖で、飛び散った石のかけらが周囲の山になったとされている。
また、別の伝説では、天の神を「女神?氏」としており、五色の石で天の裂け目を修復した中国の女神女?氏のことであろうと考えられる。
なお、五色の石は、陰陽五行説でいう世界を構成する五つの要素〔エレメント〕であり、世界を創造する力の象徴と考えられる。
※注釈k3-d:長野県図書館協会編『信濃伝説集 信州の伝説と子どもたち』(信州の名著復刊シリーズ2)一草舎 2008.該当ページはp.198-199.(注釈k3-dここまで)
※注釈k3-e:さんぶたろうと女?のつながり、陰陽五行説との関連性については、『大いなる巨人の伝説』第2部本編で触れているので、あわせてご参照ください。(注釈k3-eここまで)
このように、母が竜神(大蛇・蛇神)であること、母子神としての性質を備えていること、息子が母から受け継いだ創世の力を操り、治水や開墾などの偉業を成すことなど、多くの点でふたつの伝説は共通しているのである。
※注釈k3-f:さんぶたろう親子の母子神としての性格については、『大いなる巨人の伝説』第1部所収の「閑話休題(1)たろうと王子信仰あるいは土師郷とのつながりについて」で触れているので、あわせてご参照ください。(注釈k3-fここまで)
美作と信濃という、離れた地域のふたつの伝説に以上のような共通点が見られるのは大変興味深いことであり、今後、その成立過程を比較していくことで、ストーリーの共通点以上の、何らかのつながりが見えてくる可能性も考えられる。
(閑話休題(3)ここまで/引用・参考文献につづく)
https://www.town.nagi.okayama.jp/library/sanbu_text.html
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